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被災地支援活動

はじめに

zidouseishin_hisai1.jpg国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科は東日本大震災発生直後より、宮城県石巻市での支援活動を教育委員会と連携して現在まで行っている(2018年12月現在)。今後の子どもの災害後のメンタルヘルスに関する資料として、これまでの支援活動について2011年の活動を中心にまとめておく。

支援活動の内容

 2011年3月11日東日本大震災発生後、宮城県の依頼により厚生労働省が「こころのケアチーム」の派遣を決定し、国立国際医療研究センター国府台病院「こころのケアチーム」の石巻市への派遣が決定した。その中で児童精神科医による活動は、時期と活動内容によって大きく5つの活動に分けられる。

第一期

 第一の時期は精神科医1名、児童精神科医1名、精神科看護師1名、精神保健福祉士1名の4名メンバーで、3月19日より隔週で7日間派遣された。 こころのケアチームは震災から9日後の3月20日より石巻市内に入った。支援活動を行う多くの場所では電気も携帯電話も使用できなかった。学校は避難所として使用されていた。携帯電話も使えずガソリンもないため、安否確認も厳しい状態だった。  この時期の主だった活動内容は、戸別訪問・避難所巡り、市役所職員の支援、教育委員会との共同活動に向けた体制作りであった。石巻市役所健康推進課の指示下で、3月21日より支援活動を開始した。支援2日目に教育委員会と連絡をとり、児童精神科医は教育委員会の指示の下で被災の激しい地区への学校訪問も開始した。宿泊に関しては、石巻赤十字病院のご厚意にてその食堂をお借りでき、他の支援チームと共に過ごすことができた。
 

第二期

 第二期も同様のメンバー構成で、精神科医と共に1週間ずつ派遣された。この時期は避難所訪問活動を行いつつも、4月22日に再開する学校に向けた活動が中心であった。
 4月に入ると、避難所の衛生状態は悪化し、瓦礫は至る所に積み上げられていた。5月には校舎が大破して使用できない学区は、他の学校の校舎を間借りして新学期を再開した。
 この時期の主だった活動内容は、戸別訪問・避難所巡り、教育委員会との共同活動、学校再開に向けた啓発活動であった。学校再開に向けて市内の教師を対象に講演会を数回にわたって行った。災害後の子どもの心理状態およびその対応について学校側に具体的に伝えた。

第三期

 第三期は、2011年6月以降は、児童精神科2名で隔週3日間による活動を3ヶ月間行った。再開後に新たに現れてきた問題に対応した時期であり、児童精神科医だけのチームで単独活動を開始した時期でもあった。
 学校再開から一ヶ月余りたつと、学校現場で様々な問題が浮上してきた。厚生労働省は災害救助法に基づく「こころのケアチーム」の派遣を5月で終了した。国立国際医療研究センター国府台病院としては、今後の長期的支援の必要性があると考え、支援活動の継続を決めた。6月以降は行われた児童精神科医2名による活動となり、より児童の領域に特化した活動が可能となった。公立学校が再開し、支援活動は学校訪問が中心になった。
 この頃から、教育委員会と共に学校とスクールソーシャルワーカー(SSW)との 連携が始まった。SSWは各学校を定期的に巡回し、懸念される個別のケースや問題の学年やクラスの情報を把握し、教育委員会を通して我々支援グループに伝え、支援グループは学校を訪問して個別面談を行い、クラスを観察し、教師や養護教諭とカンファレンスを行った。相談継続のケースはSSWが定期的にかかわり、必要に応じて家庭訪問も行うため、生活面の詳細な把握と家族への働きかけも可であった。

第四期

 第四期は2011年9月~2012年1月までは毎月1回3日間、2012年2-3月は毎週、4月は隔週、5月以降は毎月1回と、必要に応じて支援の頻度を調整した。この時期は2012年3月31日に向けて、市内の子どもたちの心理的な状態を教育委員会が把握して、その傾向と対策を検討していくことを主な活動とした。
 10月11日で全ての避難所は閉鎖された。学校側から要請を受けて訪問する一方で、市内の全ての子どもの精神的な問題を見落とさずに観察していくことには限界があり、被災した子どもの多くは重篤な外傷体験をもち、精神面でのフォローアップ体制作りが急がれた。
 このような状況下で、震災後の子どものメンタルヘルスを明らかにするため石巻市教育委員会と共同で2011年11月に市内すべての幼稚園から高校までの健康実態調査を行った。

第五期

 第五期は2012年4月からは、各小中学校への巡回相談(毎月)、健康実態調査の実施(毎年)、関係者会議の開催(2月1回)が主な活動とした時期である。震災から日が経つにつれて、支援活動の日数もへり、巡回相談は2016年までは月1回、2017年は2ヶ月に1回、2018年4月からは学期1回となっている。また、関係者会議も学期に1回行なっている。ただし、健康実態調査だけは年1回継続して実施している。
 この頃から、活動方法も学校訪問・仮設住宅訪問および、そこでの個別相談という形式へと移り変わっていった。また、大きな災害後の子どもへの支援活動が撤退したあとに地域で同様のサービスを子どもたちに提供していく必要である為に、我々は地域支援システムの構築に地域の専門機関とともに開始した。参加機関は、ケースごとに関係者が参加することを基本としている。ケースの押し付け合いにならずに、お互いの顔が見える連携を目指した活動となっている。zidouseishin_hisai2.png

まとめ

 我々が長期的に行ってきた支援活動について紹介した。震災によって、子どもを取り巻く環境は大きく変わり、その中でメンタルヘルスの問題を抱える子どもも少なからずいる。しかしながら、わが国において児童精神科医療が十分な供給体制とは言えない。そのためにも、児童精神科医によるこころのケア活動は被災地にとっても大きな意味を持つだろう。また、我々のように地元外からの長期の支援活動が継続できた背景として、地元の教育委員会との連携が欠かすことができなかったと言える。学校を通じて、担任教師、養護教諭、SSW、スクールカウンセラーが日常的に丁寧な関わりを継続し、子どもの些細な変化を観察すると同時にその情報を的確に把握してくれるからこそ、ここまで支援活動を継続することができたと考えている。

謝辞

 本活動に対して多大な御協力を頂いた石巻市教育委員会、国際ソロプチミスト下松、石巻南ロータリークラブ、有限会社しゅうなんポートサービスに深く感謝申し上げます。また、国府台病院として本活動に参加された児童精神科スタッフ一同、そして国府台病院の多くの職員には本活動への理解と多大なご支援を賜り、この場を借りて深く感謝申し上げます
 なお、本活動の一部は研究として国際医療開発費の助成および石巻市の支援を受けて行われました。