肝疾患研究部 論文紹介

NAFLD患者ではSiglec-7−CD57+PD-1+ NK(ナチュラルキラー)細胞の増加を伴うNK細胞の頻度・機能低下が生じている


Increased Frequency of Dysfunctional Siglec-7−CD57+PD-1+ Natural Killer Cells in Patients With Non-alcoholic Fatty Liver Disease

Yuzuru Sakamoto 1 2†, Sachiyo Yoshio 1*†, Hiroyoshi Doi 1, Taizo Mori 1, Michitaka Matsuda 1, Hironari Kawai 1, Tomonari Shimagaki 1, Shiori Yoshikawa 1, Yoshihiko Aoki 1, Yosuke Osawa 1, Yuji Yoshida 3, Taeang Arai 3, Norio Itokawa 3, Masanori Atsukawa 3, Takanori Ito 4, Takashi Honda 4, Yoshihiro Mise 5, Yoshihiro Ono 5, Yu Takahashi 5, Akio Saiura 5, Akinobu Taketomi 2, Tatsuya Kanto 1*

Front Immunol. 2021 Feb 22;12:603133. doi: 10.3389/fimmu.2021.603133. eCollection 2021.
PMID: 33692781; PMCID: PMC7938755.

 

1.研究の背景

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)*1は、肝線維化や発癌へと進展する進行性の病態です。Natural killer(NK)細胞は自然免疫として、肝線維化や発癌・癌増殖を抑制する働きをもち、これはNAFLDの病態においても重要な役割を担います。シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglecs)*2は様々な免疫細胞に発現する免疫機能調整因子であり、NK細胞にも発現しています。本研究は、NAFLD患者の末梢血および肝浸潤リンパ球における、NK細胞に発現するSiglecsを含めた活性化/抑制型マーカーを網羅的に解析し、NAFLD患者のNK細胞表現プロファイルとNK細胞機能との関連を明らかにすることを目的としました。

2.研究成果

 肝生検を施行されたNAFLD患者42例と健康成人(HV)13例を対象とし、末梢血単核球細胞(PBMC)をmass cytometry (CyTOF)*3を用いて、各免疫細胞、Siglecs、活性化/抑制型マーカーの発現を網羅的に解析しました。また、in vitroでのサイトカイン刺激によるNK細胞機能(IFNγ産生/CD107a発現)をNAFLD患者とHVで比較しました。

  1. NAFLD患者では、NK細胞頻度・機能がともに低下する
    NAFLD患者においては、線維化の程度に関わらずNK細胞の頻度低下を認めました(図1)。NK細胞には大きく分けてCD56bright subsetとCD56dim subsetが存在し、前者は主にサイトカイン産生能が高く、後者は細胞傷害活性が高いとされております。NAFLD患者では、CD56dim subsetの低下を認めました(図2)。

    (図1)健康成人(HV)とNAFLD患者における各免疫細胞頻度
    *P < 0.05, **P < 0.01 by the Mann–Whitney U-test. F0–2, fibrosis stage 0, 1, or 2; F3–4, fibrosis stage 3 or 4; HV, healthy volunteer; mDC1, type 1 myeloid dendritic cells; Mono, monocytes; NK, natural killer; pDC, plasmacytoid dendritic cells.

    (図2)HVとNAFLD患者におけるNK細胞subsetごとの頻度比較
    *P < 0.05, **P < 0.01 by the Mann–Whitney U-test. B, B cells; F0–2, fibrosis stage 0, 1, or 2; F3–4, fibrosis stage 3 or 4; HV, healthy volunteer.

     また、サイトカイン刺激下でのNK細胞機能については、NAFLD患者のCD56dim subsetにおいて、IFNγ産生(サイトカイン産生能)およびCD107a発現(細胞傷害活性能)ともにHVと比較して低下しておりました(図3)。

    (図3)HVとNAFLD患者におけるサイトカイン刺激下NK細胞機能評価
    **P < 0.01, ***P < 0.001, ****P < 0.0001 by the Mann–Whitney U-test. HV, healthy volunteer; NAFLD, non-alcoholic fatty liver disease; NK, un, unstimulated.
    これらの結果から、NAFLD患者におけるNK細胞は、肝線維化の程度に関わらず頻度・機能がともに低下していることが明らかとなりました。

  2. NAFLD患者では、CD56dim NK細胞に発現するSiglec-7, -9、活性化マーカーが低下し、抑制型マーカーが上昇する
    CyTOFを用いた各免疫細胞におけるSiglec-1~-10発現解析によって、NAFLD患者ではCD56dim NK細胞におけるSiglec-7, -9発現がともに低下しました(図4)。

    (図4)HVとNAFLD患者における各免疫細胞に発現するSiglec-7, -9比較
    *P < 0.05, **P < 0.01 by the Mann–Whitney U-test. B, B cells; H, healthy volunteer; mDC1, type 1 myeloid dendritic cells; Mono, monocytes; MSI, median signal intensity; N, non-alcoholic fatty liver disease; NK, natural killer cells; pDC, plasmacytoid dendritic cells; Siglec, sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin.

    CD56 dim NK細胞におけるSiglecsや活性化/抑制型マーカー発現を網羅的に解析しクラスタリング後可視化した図(viSNE解析)によって、NAFLD患者ではHVとは異なる表現型をもつNK subsetが増加していることが明らかとなりました(図5)。NAFLD患者において、Siglec-7, -9や活性化マーカー(NKp30, NKp46)の発現低下、抑制型マーカー(PD-1, ILT2, CD57)の発現上昇を認めました(図6)。

    (図5)HVとNAFLD患者におけるCD56+ NK細胞のviSNE解析(代表例)
    HV, healthy volunteer; NAFLD, non-alcoholic fatty liver disease; Siglec, sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin; tSNE, t-distributed stochastic neighbor embedding.

    青が発現低下、赤が発現上昇を意味する。

    (図6)HVとNAFLD患者のCD56dim NK細胞における各マーカー発現比較

    *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001 by the Mann–Whitney U-test. F0–2, liver fibrosis stage 0–2; F3–4, liver fibrosis stage 3–4; HV, healthy volunteer; MSI, median signal intensity; NAFLD, Siglec, sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin.

  3. NAFLD患者では、疲弊型Siglec-7−CD57+PD-1+ NK subsetの発現が上昇する
     次に、NAFLD患者ではHVと比較してSiglec-7−CD57+ NK subsetの頻度が明らかに高く(図7A, B)、このsubsetはPD-1, ILT2をともに高発現していました(図7C, D)。さらに機能解析の結果から、Siglec-7−CD57+PD-1+ NK subsetは他のsubsetと比較して機能が低下しており(図7E)、NAFLD患者において増加するsubsetであることが分かりました(図7F)。これらの知見より、機能低下をきたしたSiglec-7−CD57+PD-1+ NK subsetの増加が、NAFLD患者のNK細胞機能低下の一因である可能性が示唆されます。

    (図7)NAFLD患者における疲弊型Siglec-7−CD57+PD-1+ NK subset
    *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001, ****P< 0.0001 by the Mann–Whitney U-test. HV, healthy volunteer; ILT2, immunoglobulin-like transcript 2; MSI, median signal intensity; NAFLD, non-alcoholic fatty liver disease; PD-1, programmed cell death-1; Siglec, sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin; Sig7, Siglec-7.


 本研究により、NAFLD患者においてNK細胞頻度および機能低下と、疲弊型Siglec-7−CD57+PD-1+ NK subsetの頻度上昇を見出しました。これらの知見はNAFLD病態進行におけるNK細胞機能低下の関与を示唆するものであると考えられます。


用語解説

*1. NAFLD (non-alcoholic fatty liver disease)
 NAFLDは脂肪肝を背景とし、その25%が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH, non-alcoholic steatohepatitis)として進行性に肝炎を引き起こし、約10%が肝硬変にいたるとされます。NAFLDを背景とした肝硬変患者は年率2.4%で肝細胞癌を発症することが報告され、肝線維化は肝細胞癌のリスク因子であり、肝線維化の有無が長期予後に影響するとされます。NAFLDは近年世界的に増加傾向な疾患で、有病率は、欧米で20-40%、日本でも29.7%であり、また罹患患者数は全国で1000万人以上と報告されております。NAFLDの病態進行には様々な免疫細胞の関与が報告されてきていますが、NK細胞の役割については一定の見解が得られていないのが現状です。

*2. Siglecs (sialic acid-binding immunoglobulin-like lectins)
 Siglecはsialic acid-binding immunoglobulin-like lectin (シアル酸結合免疫グロブリン様レクチンの略であり、シアル酸と結合する細胞表面タンパクです。各免疫細胞に発現し、リガンドであるシアル酸と結合することで、免疫受容抑制性チロシンモチーフ (Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibition Motif: ITIM) を介して、発現する免疫細胞の活性化を抑制する働きをもちます。肝疾患ならびにNAFLDにおけるNK細胞のSiglecの報告は少なく、病態との関連やマーカーとしての役割が模索されている状況です。

*3. CyTOF (Cytometer time of flight)
 金属安定同位体を標識した抗体を使用し、細胞表面と細胞内タンパク(シグナル伝達系)を一度に40種類以上のパラメーターで解析することが可能なmass cytometryです。ごく少量の資料で多くの情報量が得られ、多変量データ解析ソフトでの様々な解析が可能となります。

(文責:坂本 譲)


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