<研究背景>
近年、ヒトの様々な疾患に関わる遺伝子が次々と明らかにされていますが、2009年にB型慢性肝炎に関わる遺伝子として、HLA遺伝子が日本の研究チームから初めて報告されました(Kamatani, Nata Genet 2009)。肝炎・免疫研究センターでは、日本全国の拠点病院から肝炎患者のサンプル(ゲノムDNAや血清)と詳細な臨床情報を収集しており、これまでに3,500例を超える日本人B型肝炎患者からサンプルを収集しています。また、アジア各国(台湾、韓国、香港、タイなど)の研究施設との共同研究により、3,000例を超える海外B型肝炎患者からサンプルを収集しています。
<研究のアプローチ>
*ゲノム解析*
肝炎・免疫研究センターでは、ゲノムワイドSNP解析(Illumina, Affymetrix)やエクソーム解析(Illumina, Life Technologies)などにより、B型肝炎ウイルス感染を背景とする様々な病態に関わる遺伝要因の同定を試みています。ゲノム解析により疾患に関わる遺伝要因を効率的に見つけ出すためには、遺伝的および臨床的な背景を揃えた症例を対象として解析することが重要となります。そこで当施設に、国内外から収集する症例の詳細な臨床情報を対象症例と間違いなく紐付けて管理するための検体・臨床情報管理システムを構築しました。現在は、ウイルス性肝炎を始めとする様々なヒト多因子疾患(原発性胆汁性肝硬変、糖尿病など)を対象としたゲノム解析を実施しています。
*HLA機能解析*
B型肝炎慢性化とHLAクラスII(HLA-DP座位)の多型とが関連することから、B型肝炎の病態機序にHLAを介した抗原提示が関与すると推測されます。我々はHLAが提示するB型肝炎ウイルス抗原の探索、および、この情報に基づいた疾患機序の解明を進めています。
<主な成果>
これまでにウイルス性肝炎などのヒト多因子疾患について、15,000例を超える症例を対象としたゲノムワイドSNP解析を実施しました。ゲノムワイド関連分析により、B型慢性肝炎に関連するHLA-DP遺伝子のほか、C型肝炎ウイルス治療薬への応答性に関わるIL28B遺伝子や日本人原発性胆汁性肝硬変に関わるTNFSF15遺伝子などの同定に貢献しました。
<本研究に関する代表的文献>
*ゲノム解析*
1. Nakamura M, Nishida N, et al. Genome-wide Association Study Identifies TNFSF15 and POU2AF1 as Susceptibility Loci for Primary Biliary Cirrhosis in the Japanese Population 2012 Am J Hum Genet 91(4):721-8.
2. Tanaka Y, Nishida N, et al. Genome-wide association of IL28B with response to pegylated interferon-alpha and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Nat Genet 2009 41(10):1105-9.