<研究背景>
1965年にBlumbergらによってB型肝炎ウイルスの存在が示されて以降、ワクチンの開発や核酸アナログ製剤の普及によって、治療面では一定の進歩がありました。しかしながら、1)世界には未だに2億4千万人以上の慢性感染患者がいると推定されています(WHO fact sheet 2015)。ウイルス発見から既に50年が経過していながら、2)感染の機序をはじめとして、3)病態進行、肝発癌の機序は未だに不明なままです。また、4)現在の治療薬が対処療法であることから、生涯に渡る長期間の治療が必要であり、患者さんの負担となっています。
<研究内容>
上記の1〜4)の課題について、共同研究を含めて臨床と基礎研究の面から解決へ向けてアプローチを進めています。
1)感染状況の把握
B型肝炎の主な感染地域であるアジア各国(モンゴル、ベトナム、ラオス、中国、ウズベキスタン他)との共同研究を行い、各国の感染実態を把握するために検体の収集と解析を進めています。その成果は、WHOや各国の公衆衛生対策に利用されています。
2)感染機序の解明
B型肝炎ウイルスが感染に利用する受容体遺伝子としては、現在のところ、NTCP遺伝子が知られています。しかしながら、この遺伝子だけでは感染が成立しないこともわかってきました。他にも複数あると推定されている感染受容体の探索と同定を進めています。
3)病態進展機序の解明
B型肝炎患者の肝臓では、肝線維化が比較的早期に進む例があり、HBV遺伝子型によって臨床像が異なることを報告してきました(図1、2)。これには、ウイルス因子とホストの免疫状態が影響していると考えられています。我々は、HBV遺伝子型の違いと病態の違いをマウスモデルで観察し、関連する因子の解析を行っています。
4)新規治療法の開発
現在のB型肝炎の治療薬は、核酸アナログ製剤治療が中心です。それによって、ウイルス複製が抑制でき、病態進展を防ぐことが出来ますが、長期に渡る投与が必要となります。そこで、我々は、薬剤の新たな作用点として、ホスト因子を標的とした治療薬・治療法の開発を進め、根治療法の開発を目指しています。
<本研究に関する代表的文献>
1. Sugiyama M, Tanaka Y, et al. Direct cytopathic effects of particular hepatitis B virus genotypes in severe combined immunodeficiency transgenic with urokinase-type plasminogen activator mouse with human hepatocytes. Gastroenterology. 2009 Feb;136(2):652-62.e3.
2. Sugiyama M, Tanaka Y, et al. Influence of hepatitis B virus genotypes on the intra- and extracellular expression of viral DNA and antigens. Hepatology. 2006 Oct;44(4):915-24.