肝疾患研究部 論文紹介

腫瘍壊死因子による肝細胞アポトーシスは脂肪肝炎における肝線維化を促進する

Tumor necrosis factor-α-mediated hepatocyte apoptosis stimulates fibrosis in the steatotic liver in mice
Yosuke Osawa, Ekumi Kojika, Yukiko Hayashi, Masamichi Kimura, Koji Nishikawa, Sachiyo Yoshio, Hiroyoshi Doi, Tatsuya Kanto, Kiminori Kimura
Hepatology Communication 2018 Feb 13;2(4):407-420

研究の背景

近年、脂肪肝炎による肝硬変患者数が増加してきました。しかし、脂肪肝炎による肝線維化のメカニズムについては不明な点が多いです。脂肪肝炎の発症には腫瘍壊死因子および肝細胞アポトーシスが重要な役割を担うとの報告がなされており、本研究では脂肪肝において肝細胞アポトーシスが肝線維化にどのような影響をおよぼすかを動物実験モデルを用いて検討しました。

研究の内容

マウスに高脂肪食を摂食させると、脂肪肝が誘導されますが肝線維化は誘導されません。一方、肝細胞のアポトーシス感受性を上昇させるD-ガラクトサミン(GalN)を併用すると、肝細胞アポトーシスを伴って、肝線維化が誘導されました(下図)。

この肝細胞アポトーシスと肝線維化は、腫瘍壊死因子欠損マウスでは軽減されたことから、腫瘍壊死因子が重要であることが示唆されました。また、腫瘍壊死因子による肝細胞アポトーシスに対して抑制的に働くNF-kappaBを強制的に活性化させても、肝細胞アポトーシスと肝線維化が軽減しました。このことから、腫瘍壊死因子による肝細胞アポトーシスが脂肪肝炎における肝線維化を促進することが示唆されました。また、肝線維化が誘導されたマウスにおいて、血清ALTの上昇が認められなかったことから、ALT上昇を伴うような強い肝細胞障害がなくても線維化が誘導されることが示唆されました。

以前に我々は、WntシグナルであるCBP/beta-cateninの結合が種々の動物モデルで肝線維化に重要であることを報告してきました。そこで、脂肪肝炎でも同様にCBP/beta-cateninが肝線維化に関与するかを検討しました。肝細胞特異的CBP欠損マウス、コラーゲン産生細胞特異的CBP欠損マウス、マクロファージ特異的CBP欠損マウスを作製し、上述の処置をすると、肝細胞特異的CBP欠損マウス、コラーゲン産生細胞特異的CBP欠損マウスでのみ肝線維化の軽減が認められました(下図)。

このことから、脂肪肝炎における肝線維化においてもCBP/beta-cateninが関与することが示唆されました。

まとめ

本研究により、腫瘍壊死因子による肝細胞アポトーシスは脂肪肝における肝線維化を促進すること、その際CBP/beta-cateninが関与することを見出しました。今後、CBP/beta-catenin阻害剤による治療法の確立が期待されます。

国立国際医療研究センター
肝炎・免疫研究センター
肝疾患研究部

〒272-8516 千葉県市川市国府台1-7-1
TEL 047-372-3501/FAX 047-375-4766