IDO (Indoleamine-2,3-dioxygenase)はB型急性肝炎における非細胞傷害性ウイルス排除に重要である
Indoleamine-2, 3-dioxygenase as an effector and an indicator of protective immune responses in patients with acute hepatitis B
Sachiyo Yoshio, Masaya Sugiyama, Hirotaka Shoji, Yohei Mano, Eiji Mita, Toru Okamoto, Yoshiharu Matsuura, Alato Okuno, Osamu Takikawa, Masashii Mizokami and Tatsuya Kanto
Hepatology 2015 Oct 12. doi: 10.1002/hep.28282. [Epub ahead of print]
研究の背景
B型肝炎ウイルス排除には、HBV特異的CD8+T細胞(獲得免疫)が重要であると報告されていますが、自然免疫応答に関しては、担当細胞を含めその意義がほとんど明らかになっていません。ALT正常のままHBVが自然排除された症例では、感染初期に活性化ナチュラルキラー(NK)細胞*1由来IFN-gが増強し、引き続いてHBV抗原特異的なCD8+T細胞の増加が認められると報告されており(Fisicaro, P. et al)、HBV排除におけるNK細胞を中心とした自然免疫の重要性が示唆されます。我々は、排除率95%の急性肝炎と年率1%未満の慢性肝炎の両病態間での免疫因子を比較検討することによりHBV排除に重要な機構を解明することを目的としました。Indoleamine-2,3-dioxygenase (IDO)は必須アミノ酸であるトリプトファンの代謝酵素でIFN-γやTNF-αにより肝細胞に強く誘導され、感染症において免疫抑制作用と抗ウイルス作用の二面性を持つことが知られています。そのためIDOも重要な検討項目の一つとしました。
研究の内容
B型肝炎患者53名(急性肝炎25名、慢性肝炎14名、慢性肝炎急性増悪*214名)と健常者14名を対象にして、血中のIDO活性*3、40の免疫因子を調べました。HBV感染患者においては、健常者と比較してIDO活性の上昇が認められましたが、B型急性肝炎感染者では特に強く上昇していました(図1)。急性肝炎においては、感染早期にIDO活性,CXCL9, CXCL10, CXCL11が強く増強されました。一方で、慢性肝炎の急性増悪期にはIDOの上昇は認めませんでした(図2)。
CXCL9, CXCL10, CXCL11の経時的な検討
HBVを導入した肝細胞株(Huh7)を、健常者の血液から分離したNK細胞と樹状細胞*4と共培養し、培養上清中のIFN-a, IFN-g, IDO活性、肝細胞内のHBV複製の変化を定量しました。また、CRISPER-Cas9システムを用いたIDOノックアウトHuh7、ドキシサイクリン誘導性IDO発現Huh7を用いて、肝細胞内に誘導されたIDOの作用を検討しました。HBV肝細胞とNK細胞、樹状細胞が共存することでIDOが肝細胞に強く誘導され、HBVウイルスが肝細胞から排除されました(図3-A)。肝細胞中のIDOをノックアウトすると、HBVウイルスの排除効果が一部抑制され、IDOを強制発現させることでその効果は回復しました(図3-B)。
A. 肝細胞内のIDO活性(比) 肝細胞内のHBV量(比)
A. HBV感染肝細胞とNK細胞、樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell)を各々、
もしくは共培養し、培養上清中のIDO活性と肝細胞内のHBV量を検討しました。
HBV感染肝細胞単独培養の時をそれぞれbaselineとした比で算出しています。
(N, NK細胞;P, 樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell); NP, NK細胞+樹状細胞)
B. HBV感染肝細胞(親株 [parent]、IDOノックアウト株 [IDO-KO]、IDOドキシサイクリン
誘導株 [DOX])とNK細胞(N)、樹状細胞(P)の3者を共培養し、培養上清中のIDO活性
と肝細胞内のHBV量を検討しました。HBV感染肝細胞単独培養の時をそれぞれbaselineと
した比で算出しています。
まとめ
本研究により、B型肝炎ウイルス排除における自然免疫応答の担当細胞とその意義を明確にすることができました。IDOはHBV感染早期に肝細胞非傷害性の機序でHBV排除に関与する鍵分子である可能性が見出されました(図4)。本研究成果は、HBVの完全排除を目指す治療法の開発に重要な示唆を与えるものと考えられます。
ケモカインCXCL9,CXCL10,CXCL11 ((1))により, 肝臓に集積したNK細胞と
樹状細胞((2))がIFN-γ/IFN-αを産生し((3))、 IDOが肝細胞に誘導されて((4))、
肝細胞内のHBVを非細胞傷害性に排除する機序が想定される。
引用論文
Fisicaro, P., et al.,
Early kinetics of innate and adaptive immune responses during hepatitis B virus infection.
Gut, 2009. 58(7): p. 974-82.
用語解説
*1. ナチュラルキラー(NK)細胞:自然免疫に関与する主要細胞。ウイルス感染細胞を細胞傷害性機序(Fasリガンド、TRAILなど)と非細胞傷害性機序(IFN-γ, TNF-αなど)で排除する。
*2. 慢性肝炎急性増悪:慢性肝炎の経過中にALT値が上昇した状態。本研究ではALT値>正常ALT値の5倍以上になったものを急性増悪としている。
*3. IDO活性:血中のIDO活性はHPLC (高速液体クロマトグラフィー)で測定したキヌレニン濃度(代謝産物)をトリプトファン濃度で割ることで算出される
*4. 樹状細胞 dendritic cell (DC):生体内の強力な抗原提示細胞。ヒトの樹状細胞には主に3つのサブセット(plasmacytiod DC, myeloid DC type1, myeloid DC type2 (BDCA3DC))が存在しており、様々な免疫細胞の機能活性化や機能調節に関与している。本研究で解析した樹状細胞plasmacytoid DCは、ウイルスに反応してI型インターフェロン(IFN-α/β)を産生する細胞である。