肝疾患研究部 論文紹介

日本人におけるHLA-DPB1遺伝子の個別遺伝子型とB型慢性肝炎の関連

Effects of HLA-DPB1 genotypes on chronic hepatitis B infection in Japanese individuals
Nao Nishida, Jun Ohashi, Masaya Sugiyama, Takayo Tsuchiura, Ken Yamamoto, Keisuke Hino, Masao Honda, Shuichi Kaneko, Hiroshi Yatsuhashi, Kazuhiko Koike, Osamu Yokosuka, Eiji Tanaka, Akinobu Taketomi, Masayuki Kurosaki, Namiki Izumi, Naoya Sakamoto, Yuichiro Eguchi, Takehiko Sasazuki, Katsushi Tokunaga, Masashi Mizokami

Tissue Antigens
DOI: 10.1111/tan.12684
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tan.12684/abstract

研究の背景

 我々はこれまでに日本人を含むアジア系の集団(韓国、香港、タイ、中国)において、HLA-DPB1遺伝子*1の特定のタイプ(アリル)がB型慢性肝炎になりやすさ(感受性DPB1アリル:DPB1*05:01DPB1*09:01)や、なりにくさ(抵抗性DPB1アリル:DPB1*02:01DPB1*04:01DPB1*04:02)に関係していることを明らかにしてきました(Nishida N et al. PLoS One2014)。そこで本研究は、日本人において、HLA-DPB1遺伝子の個別の遺伝子型(父母それぞれから受け継いだアリルの一対)がB型慢性肝炎に与える影響を明らかにすることを目的としました。

研究の内容

 B型肝炎患者群1,357症例と健常対照群1,225症例を対象として、DPB1遺伝子の遺伝子型頻度を2群間で比較した結果、感受性DPB1アリルを1つ有するよりも、2つ有する症例の方がより慢性肝炎になりやすくなることが分かりました。同様に抵抗性DPB1アリルについても、1つ有するよりも2つ有する方がより慢性肝炎になりにくくなることが分かりました(図1)。さらに、異なる種類の抵抗性DPB1アリルを一対で有する症例の方が、同じ種類の抵抗性アリルを一対で有する症例よりもさらに慢性肝炎になりにくくなったことから、異なる抵抗性DPB1アリルを有することでより多くのタイプのHBV抗原を認識することが可能となり、T細胞への抗原提示において有利になると考えられます。興味深いことに、DPB1*05:01と抵抗性DPB1アリルのいずれかを一対で有する症例は、B型慢性肝炎になりにくかったことから、DPB1抵抗性アリルが優性効果を示したと考えられます。

図1 B型慢性肝炎に対するDPB1アリルの相加効果

まとめ

 今回の解析で明らかとなったHLA-DPB1遺伝子型とB型慢性肝炎の関連は、HLA-DPB1分子によるHBV抗原認識のメカニズムを明らかにする今後の研究において重要な知見となることが期待されます。

用語解説

*1HLA(Human Leukocyte Antigen = ヒト白血球抗原):遺伝子の第6番染色体短腕部に存在する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の産物。DPB1はその遺伝子座の一つ。

西田 奈央

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