PNPLA3遺伝子、JAZF1遺伝子は2型糖尿病における肝発がんに関連する
The impact of PNPLA3 and JAZF1 on hepatocellular carcinoma
in non-viral hepatitis patients with type 2 diabetes mellitus
Misuzu Ueyama, Nao Nishida, Masaaki Korenaga, Keiko Korenaga, Erina Kumagai, Hidekatsu Yanai, Hiroki Adachi, Hisayuki Katsuyama, Sumie Moriyama, Hidetaka Hamasaki, Akahito Sako, Masaya Sugiyama, Yoshihiko Aoki, Masatoshi Imamura, Kazumoto Murata, Naohiko Masaki, Takumi Kawaguchi, Takuji Torimura, Hideyuki Hyogo, Hiroshi Aikata, Kiyoaki Ito, Yoshio Sumida, Akio Kanazawa, Hirotaka Watada, Koji Okamoto, Kenjiro Honda, Kazuyoshi Kon, Tatsuya Kanto, Masashi Mizokami, and Sumio Watanabe
Journal of Gastroenterology
DOI 10.1007/s00535-015-1116-6
http://rd.springer.com/article/10.1007/s00535-015-1116-6
研究の背景
2型糖尿病における肝発がんリスクは、健康な方と比べて約2倍高まると報告されています。しかし、肥満、男性、高齢などの肝発がんリスクとして報告された因子を持っていても、肝がんを発症しない方は多く存在しています。一方、非アルコール性脂肪肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis, NASH)*1は2型糖尿病に高率に合併し、B型肝炎、C型肝炎の関与しない肝がんの一因となります。糖尿病患者数は本邦では約2000万人と推定されており、多くの糖尿病患者の中から肝がんの高リスクな方を囲い込むことが重要な課題となっています。
本研究では、肝炎ウイルス非感染の糖尿病患者における、肝がん発症に関与する宿主因子を明らかにすることを目的としました。
研究の内容
本研究はNASHの肝線維化、発がんに関連すると報告されているPNPLA3遺伝子(rs738409）、糖尿病発症に関連すると報告されている50種の糖尿病関連遺伝子が、2型糖尿病における肝発がんに関連するか否かを明らかにする目的で行われました。(1)10年以上の糖尿病治療歴を有し、(2)B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染していない、(3)多量飲酒歴(アルコール量＞60g/日)を有さない389症例が対象となりました。肝がんを発症した肝がん群（59名）と肝がんを発症していない非肝がん群(330名)の間でPNPLA3遺伝子(rs738409*2）、および糖尿病関連遺伝子の型を比較しました。その結果、PNPLA3遺伝子(rs738409）のGアリル*3は肝がん群に有意に多く、PNPLA3遺伝子(rs738409）が糖尿病患者における肝発がんに関連していることが明らかとなりました（図1）。また、PNPLA3遺伝子(rs738409）の型で一番肝発がんのリスクが高いGG型の方の中で、肝発がんをした群では、糖尿病関連遺伝子であるJAZF1遺伝子(rs864745)のGアリルを持つ頻度が高いことが示されました（図2）。
まとめ
PNPLA3遺伝子(rs738409）とJAZF1遺伝子(rs864745)は、2型糖尿病において肝発がんと関連することが明らかとなりました。この二つの遺伝子を解析することにより、肝病態が進展する前に、将来肝がんになりやすい糖尿病症例を抽出できる可能性があり、肝がんの早期発見・早期治療に繋がる可能性が示唆されました。
用語解説
*1非アルコール性脂肪性肝炎（NASH）：アルコール非飲者にみられたアルコール性肝炎類似の病態。脂肪沈着を認める肝臓（脂肪肝）に、肝実質の壊死・炎症、線維化所見が加わった状態。肝線維化が進展すると肝硬変に至る。
*2rs番号：一塩基多型（SNP）に対して定義された番号。rs738409はPNPLA3遺伝子の中に存在する一塩基多型のひとつ。
*3アリル：対立遺伝子のこと。A、T、G、Cの4種類のうちのいずれか。
