肝疾患研究部 論文紹介

免疫系タンパク質HLAの低安定性が、自己免疫疾患のかかりやすさと関連

Cell-surface MHC density profiling reveals instability of autoimmunity-associated HLA
Hiroko Miyadera*, Jun Ohashi, Åke Lernmark, Toshio Kitamura, Katsushi Tokunaga
The Journal of Clinical Investigation
DOI:10.1172/JCI74961
http://www.jci.org/articles/view/74961

研究の背景

 1型糖尿病などの自己免疫疾患は、主に、免疫系の細胞(T細胞)が自己の組織を異物(病原体など)と認識して免疫応答することにより発症します。免疫学的自己・非自己の認識に関与する分子として、ヒト白血球抗原(HLA) (注1)と呼ばれるタンパク質があります。特定のHLA遺伝子型を持つ人では1型糖尿病の発症率が高いことが、日本人、ヨーロッパ系集団、アフリカ系米国人などで報告されています。例えばヨーロッパ系集団では、1型糖尿病に罹患した人の約9割が"DR3-DQ2", "DR4-DQ8"と呼ばれるHLA遺伝子型の少なくとも一つを持ちます。日本人では、別のタイプのHLA遺伝子型が1型糖尿病感受性に関連します。HLA遺伝子の多型は、さまざまな自己免疫疾患、免疫系疾患に強く関連しますが、その仕組みは十分に解明されていません。

研究の内容

 本研究は、HLAのタンパク質安定性が自己免疫疾患感受性に関わる可能性に着目して行われました。まず、HLAタンパク質の安定性を推定するための測定手法を構築し、そして、ヒト集団中の主要なHLA遺伝子型(HLA-DQ座位)約100種類についてHLAタンパク質の安定性を測定しました。その結果、1型糖尿病感受性に関連するHLA遺伝子型が、安定性が顕著に低いHLAタンパク質を作ること、そして、1型糖尿病のかかりにくさに関連するHLA遺伝子型が非常に安定なHLAタンパク質を作ることを見出しました(図1)。さらに、HLAタンパク質の安定性制御に関わるアミノ酸残基の多型をペプチド結合溝外の位置に同定し(図2)、この多型にコードされるアミノ酸のなかでも、HLAタンパク質を低安定化させるアミノ酸が、1型糖尿病感受性に強く関連することを明らかにしました。

HLA-DQ タンパク質安定性のアリル間の違い
HLA-DQ タンパク質の安定性制御に関わる残基

研究の意義

 HLA遺伝子多型と自己免疫疾患リスクとの関連は長年知られていますが、その根本的な機序は未だに明らかではありません。従来の研究では、インスリンなどの自己ペプチドを結合しやすいHLAが疾患の発症リスクを上げると考えられていますが、実際の発症機序については不明な点が多く残されています。今回の研究結果は、自己免疫疾患発症の過程に、従来の定説とは根本的に異なる機序が働いている可能性を示唆します。この機序の詳細を明らかにすることで、HLAと関連する自己免疫疾患、他の免疫系疾患のメカニズム解明に向けた新たな展開が期待されます。

用語解説

 注 1) HLA ヒト白血球抗原(human leukocyte antigens (HLA))は、内在・外来性ペプチドを細胞表面に提示し、T細胞の分化・活性化制御を担う獲得免疫系の主要分子です。HLA遺伝子は第6染色体短腕部の約4MbにわたるHLA領域にコードされ、この領域内に、HLA-A, -B, -C (HLAクラスI), HLA-DP, -DQ, -DR (HLAクラスII)を含む、100個以上の遺伝子・偽遺伝子が密に存在します。HLA遺伝子は高度な多型性を有し、各座位について多数のアリル(対立遺伝子)が維持されています。多型はペプチド結合溝をコードする領域に多く存在し、結合ペプチドレパトアのアリル間多様性を生み出しています。

宮寺 浩子

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