3か月間・一日一回の内服でC型肝炎ウイルスが排除可能に!
Ledipasvir and sofosbuvir fixed-dose combination with and without ribavirin for 12 weeks in treatment-naive and previously treated Japanese patients with genotype 1 hepatitis C: an open-label, randomised, phase 3 trial
Mizokami M, Yokosuka O, Takehara T, Sakamoto N, Korenaga M, Mochizuki H, Nakane K, Enomoto H, Ikeda F, Yanase M, Toyoda H, Genda T, Umemura T, Yatsuhashi H, Ide T, Toda N, Nirei K, Ueno Y, Nishigaki Y, Betular J, Gao B, Ishizaki A, Omote M, Mo H, Garrison K, Pang PS, Knox SJ, Symonds WT, McHutchison JG, Izumi N, Omata M. Lancet Infect Dis. 2015;15(6):645-53
DOI: 10.1016/S1473-3099(15)70099-X
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S147330991570099X
研究の背景−C型肝炎ウイルスとソホスブビル−
日本では年間約30000人が肝がんで死亡しています。その約70%はC型肝炎ウイルス(HCV)に感染しており、肝がんを撲滅するためにはHCV排除が必要です。これまでのC型慢性肝炎に対する治療は、ペグインターフェロンの注射が必要でした。
2011年、米ギリアド・サイエンス社は、経口抗HCV剤Sofosbuvir (ソホスブビル)を開発した米ファーマセット社を約110億ドル(当時で約8480億円)で買収しました。その後、ペグインターフェロンを使用しないソホスブビルを使用した治療法が世界中で試され、90%を超えるウイルス排除率が報告されました。ソホスブビルは「チェーンターミネーター」と呼ばれ、ウイルスゲノムにコードされるNS5B依存性RNAポリメラーゼを標的とし、薬剤耐性変異株出現も非常に少なく安全性が高いとされています。
本論文は、我が国のC型慢性肝炎患者の約70%を占め、インターフェロン治療が効きにくいHCV遺伝子型1型に対するソホスブビルとNS5A阻害剤Ledipasvir(レジパスビル)の国内第3相試験の結果についての報告です。
試験デザインと患者背景
本治験は溝上雅史(国立国際医療研究センター、肝炎・免疫研究センター長)を治験代表者とする国内19施設の無作為、オープンラベル試験で、(1)20歳以上 (2)HCVRNA 5logIU/mL以上 (3)クレアチン・クレアランス1.0 mL/s以上 血小板値5万/mm3以上を満たした341例が対象となりました。インターフェロン治療歴の有り無し別に分けられ、それぞれソホスブビル400mg、レジパスビル90mgにリバビリンを併用する群、しない群に細分化され、4つの対象群で比較検討を行いました。ソホスブビルとレジパスビルは配合剤となっており、1日1回、1錠を内服します。ウイルス学的治療効果判定は、投与終了後12週に行いました。対象群には、発がんリスクが高いとされる肝硬変の方が76名(22%)、65歳以上の方は112名(33%、最高齢は79歳)含まれており、肝硬変かつ65歳以上の方は28名(8%)でした。
治療効果
治療開始4週目で全例ウイルスが陰性化し、治療終了時点(12週目)においても、通院全症例が陰性化しました。投与終了後12週目までHCVRNAの持続陰性化が確認された症例は338例(99%)で、投与終了後24週目でも同様でした。ウイルス排除に失敗した3例はいずれもインターフェロン治療歴がないリバビリン併用群であり、2例は投与中止されており、12週間投与を継続してHCVRNAが再燃した例は1例のみでした。
再燃例の原因と薬剤耐性
12週間投与を完遂した339例中、HCVRNAが再燃したのは1例のみであり、その原因は不明でした。ソホスブビルのような経口抗HCV剤の治療効果に影響する要因の一つとして、薬剤耐性変異株の可能性が考えられます。再燃した1例は、NS5A領域のY93がH(ヒスチジン)に変異していました。しかし、治療前からY93Hの変異が検出されていた58例では著効していますので、ソホスブビル+レジパスビル治療にY93H変異の影響は少ないと考えられます。
まとめ
日本のHCV遺伝子型1型のC型慢性肝炎患者を対象とした治験によって、ソホスブビル+レジパスビル配合剤1剤の12週間投与によって、安全かつ100%のウイルス排除効果が確認されました。ソホスブビル+レジパスビル配合剤は、ハーボニー錠として2015年7月3日に薬剤承認されました。高齢者のHCV感染者が多い我が国にとって、副作用の多いインターフェロンやリバビリンを使用しなくても、内服のみでC型慢性肝炎が完治可能であることは、社会的にも大きな意義があります。